桜界逸史

3・春紫苑
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「以上が、今日の全体の班ごとの練習メニューだ。明後日に出動を控えている軍隊は、特に厳しくやっとけ。自主練にした意味を考えろよ」

そう言って、銀のキセルをくるくる回しながら、志國は話を畳んだ。

「今日はどこかで晴れないかい、海神」

「いや、一日中雨だ」

空雉の言葉に冷静に即答しながら、海神は朝礼が行われていた広間を出た。

隊員の再召集は、一時間半後だ。
その間に、朝ごはんを食べたり、各自で少しだけ自由な時間を過ごす。

いつもならば、朝礼は屋外で行うのだが、例によって今は雨だ。
この頃は室内での朝礼が増えた。

「マジかよ〜、自主連のメニューどーすっかなぁ」

「雨だとやること限られるからねぇ。梅雨明けはいつになるんだろ」

今年は梅雨明けが異様に遅い。
もう7月の中旬だというのにこの天気だ。
気分が乗らないのも仕方がないというものだろう

何をするか悩みながら食堂へ向かう。

本来ならば月の初めに練習メニューが決めてあるのだが、今回のように急な依頼が入ったとなると話は別だ。

訓練内容を実践向けにするため、訓練予定は変更され毎朝の朝礼時に決定された練習メニューを告げられる。

今回の自主練は、個人個人が好きなことをやっていいという意味合いの自主練ではない。

結局は誰が練習メニューを組み立てるかが、変わるだけだ。

そして、もちろんのことその役目は班長である摂陸たちになる。


とりあえず、二日後に向けての一番良い練習メニューは…

何すりゃいいかなぁ



すると、食堂の入り口が見えてきたところで、海神が腕を組んで言った。

「もし…、まだ自主連の内容が決まっていなかったらでいいんだが……組み手をしないか?一班、二班、四班の合同練習として、やればいい。全部出動する班だし、シュミレーションとして…」


同意を求めるように、こっちに目線を送る海神に空雉と摂陸は頷いた。

「いいね、その案。乗った♪」

「組み手なら天気なんかカンケーねぇしな。出動間近の班に優先権あるし、いいんじゃね?」

組みてなら、屋根付きの競技場でできる。

海神の案に素早く乗った二人は、すぐにルールの構成を考えだした。


「武器はどうする?個人的なものだけにするか?」

「そうだねぇ、戦車とか戦闘機とかの訓練はいっつも嫌というほどしてるし、今回は陸上選が大のメインだしね」

「やり方も大人数のバージョンで考えなきゃな。俺たち班長組は最後に別枠でやったほうがいいか?」

「一緒にいてもいいんじゃない?どーせ最後まで残るでしょ」

朝食を口にしながらもスムーズに話は進み、一応の構図はまとまった。

海神がまとめるように言う。

「後はチームわけのために、もう一班加えるか。どうする?」

「ん、今日さ。3班も暇……じゃなくって、自主連だよね」

空雉の言葉を聞いて、摂陸が明らかに怯んだ。

「み、弥泉を誘う気か!?」

ダメかい?と空雉は首を傾げる。

「弥泉のとこなら一番受け入れてくれそうじゃない。それに、シュミレーションが目的なんだから、後方支援部とかより主だった班とやった方がいいでしょ?」

「そりゃそうだけどよ…」

空雉の言うことを肯定しながらも、俯いて渋る摂陸に空雉は笑いかけて言った。

「まあそれに?この話を聞いたからには、入ってくるだろうしねぇ、弥泉なら」

えっ、と顔を上げた摂陸の目の前に立っていたのは…

海神が軽く頭を下げた。

「どうも、弥泉さん」

「うわっ、弥泉!?」

「おっす」

ニッと笑って片手をあげる弥泉がいた。

おいおい、昨日もこんな登場のし方じゃ無かったか!?

と、弥泉の噂をすれば影がさすっぷりに、摂陸は心底ビビる。

そんな摂陸に向かって、弥泉がかなり上から目線の、からかい口調で言った。

「海神はいっつもちゃんとしてるのよね、偉いわホント。どっかのバカと違って?」

わざとらしく目を合わせたのはもちろん摂陸だ。

余談だが、弥泉は摂陸、海神、空雉よりも少しだけ年上である。
故に海神は軽めの敬語を使うのだが、実際位は同じなのだからその必要は絶対ではないはずだ。

摂陸は向けられた視線を睨み返して言った。

「おい、俺だけかよ!空雉だって似たようなもんだろ?!」

「いやいや、俺は弥泉を慕ってるからねぇ。ま、愛情表現ってやつ?」

空雉はしれっとして上手く逃げる。
ひとかけらもそんな事を思っていないのは確実だ。

そして、そんなひとかけらも思っていないことを必要だと感じる時に、サラッと言えてしまう空雉に不器用な摂陸が勝てるはずもない。

摂陸はせめてもの抵抗に、あからさまなため息をついた。

弥泉は完全に入る気満々だ。
もうこうなったら何を言っても仕方がない。

「型式はどーすんのよ?」

「一班ずつ総当たり形式でやるつもりだよ」

「いいわ。明日のイメージトレーニングにもなるでしょうし…、私の班も今日は自主練だったから。まぁ、付きやってやらんこともないわね〜」

「うわ、コイツ…」

何様だよ、と続けようとした摂陸は途中で口を噤んだ。

弥泉様に決まってんじゃなーい

とか何とか言うに決まっている。


ま、銃撃てりゃ何でもいいか。

と諦めた摂陸の横で、よし、けってーい!と弥泉が言って、話はまとまった




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