桜界逸史

6・弟切草
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ただ淡々と、坂を登る。
懐かしい記憶を、一歩ごとに噛みしめながら。

幼い頃、共に約束を刻んだ場所へと。

もしも、お前がまだ昔を持っているのなら、きっと。
きっと、ここへくるだろう。


白い建物が見えてくる。
もうすこし。あと、少し。

『もう少しだから!頑張れ!』

あぁ、なんて無邪気だったのだろう。
そして、なんて無知だったのだろう。

全てを知らないあの頃。


でも、だから、お前の傷も、俺には分かっていなかった。

『あの日』の後、お前は本当は、だんだんと崩れていたんだろう。

それが、分からなかった。

だって、笑っていたから。
だって、変わらなかったから。

いつもどおり

『統虎がいるから、大丈夫』だと、そう言って笑うから。

気付くべきだった。なのに、まったく気付かなかった。

それどころか俺は、あの後も同じように振る舞うお前を見て。

『お前は強いな。凄いよ』

そんなことを言ってしまったのだ。

あの時の笑顔が。
今ではとても、泣き出しそうな顔に見えるよ。




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