こたえはなあに





「ねえ 鬼太郎――たてたり、壊したり、抱えたりするものって何?」

「え?」



 突然、ネコ娘が卓袱台に頬杖をつきながら聞いてきたことに、窓から外を眺めていた鬼太郎が、彼女を見た。
 その彼女はといえば、自分をじいっと見ている。
 鬼太郎はとりあえずはと、問うてみた。



「なんだい? いきなり」

「んー あのね。昨日、保育所のアルバイトだったんだけど、今 子ども達の間でなぞなぞがはやってるみたいで、あたしに出してきたものなの」

「……なるほどね」

「あたし、ぜーんぜん、わからなくて」



 なぞなぞか。
 いかにも幼い子どもが好きそうな遊びだ。
そんなことを考えながらネコ娘を見ると、彼女は思案顔で答えを見つけようと考え込んでて。僕はそんな彼女を微笑ましいと思って、それから僕も考えてみた。



「たてたり、壊したり、抱えたりするもの………か」



 ……何だろう

 人間の子ども達がだしたなぞなぞだということは、人間達が知っているものだろう。
 だったら僕達が知らない可能性だってあるんじゃないだろうか。
 とりあえず僕は浮かんだものを口にしてみた。



「ビルじゃないかな?」

「確かに前の2つはあてはまるかも――でもそれじゃ、最後のが説明できないんじゃないかな」

「――あ、そっか」



 自身の指を顎にあてながら指摘してきた彼女に、僕も改めて納得する。確かにそれでは最後だけ意味がわからなくなる。ビルは抱えたりはできない。
 じゃあ何だろう。
 なぞなぞなんて簡単なものだと思っていたけれど、意外に難しい。僕達はまた考え始めた。
 だけどそれは、弟三者によって中断されることになる。





 簾が形を崩す。



「はあい、鬼太郎ちゃん。何か食わせてくんねえ?」

「――ネズミ男」

「ちょっとっ ネズミ男? やってきてそうそう、鬼太郎にたかるんじゃないわよ!」

「…うげっ。おめーもいたのかよ」

「なによ、いちゃ悪い?」



 にょんと簾の向こうから現れたのは、ひょろりと背が高いネズミ男だった。
 へへへ。何かを強請る時に見せる笑顔を鬼太郎に向けたが、そこにいたネコ娘にぴしゃりと咎められる。
 相変わらずのその関係性に鬼太郎は曖昧な笑みを浮かべる。そんな鬼太郎の肩にネズミ男は手をやると、揉みしごく。



「鬼太郎さーん。ね、おれっち、3日前から何も口にしてねーんだよ。何か食わせてくれよ?」

「そうだなあ……」

「な、頼むよ。あ、いや頼みますっ。鬼太郎大せーんせ?」

「まったく 現金な奴だな」



 鬼太郎はやれやれ、と小さく溜息をつくと、ゆっくりと立ち上る。それが意味することをネズミ男は理解すると、「さっすが俺様の親友だぜ」とあからさまに喜んで見せた。
 ネコ娘は何か面白くなくてじと目で睨みつけていたが。



「ほら。昨日の残り物でよかったら食べなよ」

「さーんきゅう!」



 実にネズミ男らしく。
 鬼太郎が卓袱台の上に食べる物をおくやいなや、目を輝かせてありついた。それを目の前で見ていたネコ娘は、心底嫌そうに眉を潜める。
 鬼太郎はそんな彼女を宥めようと、名前を呼んだ。



「ネコ娘。さっきの答え、考えなくてもいいのかい?」

「にゃっ? あ――そうだ、この男のせいで忘れちゃうとこだった!」



 食事に夢中になりながらも、二人の会話を聞いていたネズミ男は手をとめた。



「はんらを(なんだよ)? ほはへっへ(答えって)」

「……ちょっと、口にものを入れたまま喋らないでよね」

「何言ってるかわからないよ、ネズミ男」



 鬼太郎とネコ娘に指摘されて、ネズミ男は口に入れていたものを飲みほした。



「だから、何だよ。答えっつうのは」

「なぞなぞの答えだよ」

「はあっ? なぞなぞだあー?」

「なによ」



 何か文句ある?

 そんなことを言いたいような顔を自分に向けてきたネコ娘に怯むことなく、「何も言ってねえだろ」と呟くと、続きの言葉を投げてきた。



「どんなものだよ。俺にも教えてちょーだいよ」

「あんたがそんなこと言うなんて、何か気味悪いわね」

「だからただの興味本位だってえの」

「……仕方ないわね………“たてたり、壊したり、抱えたりするもの”は何かって、考えてたのよ」

「ふーん」



 ――聞いてきたのは自分だっていうのにこの男はっ


 ネコ娘は胡座をかきながら、耳に小指を突っ込んで聞くネズミ男に、内心で拳を作って震わしたけれど、いちいち突っ込みのも疲れちゃうわね、と我慢する。
 対してその本人はおおげさなほどのジェスチャーつきで小馬鹿にするような視線を、鬼太郎とネコ娘に向けてきたのだった。



「なんだよ。めちゃくちゃ簡単じゃねえか」

「え、ネズミ男はわかったのか?」

「え。うそっ」

「ほんとほんと。このビビビのネズミ男様に、わかんねーもんなんてねえってーのっ」



 それに驚いたのは他ならぬ鬼太郎とネコ娘だ。自分達が長い時間考えてもわからなかったのに、この目の前のネズミ男はすぐにわかったようで。
 目をまんまるくしている二人に、彼はどこか勝ち誇ったような顔つきになる。
 そんな彼にいつもなら唇を尖らせるネコも、今日はどうやら違うらしい。
 彼女は卓袱台のうえに手をつきながら、ずいっと身を乗り出した。



「ねえ、ネズミ男! 答えを教えてっ」



 その瞳は真剣だ。
 だけど。



「やだね」

「――な、なんでよう」

「なんでって おめー。いつも邪険にされてる身なのによお、こういう時だけそういう態度っつーのは、都合がよすぎるんじゃないの?」

「それは……そう、だけど……」



 ネズミ男の言い分にネコ娘は、おずおずと視線を卓袱台に向ける。教えてほしいけれど、確かにこの場合は、彼の言うことが正しいだろう。
 しゅんとしてしまったネコ娘を見て、ネズミ男は心の中でほくそ笑んでいた。

 くくくっ。
 いつもは気の強い、自分の天敵とも呼べるようなネコ女を言いくるめられている。
 普段はどちらかといえば自分のほうが本能的に負けてしまっているぶん、こんなふうな彼女を見るのはほんの少し、気分がいい。
 だけどネズミ男が高見から見下ろしていられたのは、束の間のことだった。



「ネズミ男」

「ああん?」



 にしししっ、と笑いを堪えながら、声の方向――鬼太郎に視線を移した瞬間、ネズミ男は表情を一変させる。

 とたん。

 嫌な汗がこめかみのあたりと、もう何ヶ月も洗っていない自身の背につうっとつたったのがわかった。




「き……鬼太郎」



 ネコ娘の斜め後ろにいる鬼太郎の顔は、どこか微笑んでいるように見える――いや、あれは確かに笑みを浮かべている。
 けれど。
 それはいいものではない。そう長年来のつきあいであるネズミ男は感じとったのだ。
 つまりはよく言うあれだ。顔は笑っているのに、瞳は笑ってはいない。



「……ネズミ男」



 それだけでも恐ろしいのに、鬼太郎の瞳にはそれ以上を感じてしまう。
 ひとつしかない、どんぐり眼。それが刹那にその奧で輝いているような気さえする。
 ネズミ男は、これ以上にないくらい後悔した。


 そうだった……そうだったぜ、あああ……。


 何も喋らなくなってしまったネズミを見かねた鬼太郎が、ゆっくりと唇を開いた。



「ネコ娘、あいつに聞くのは諦めようか。そのかわり僕達でまた考えよう」

「……鬼太郎」

「これ以上、聞くのも悪いかもしれないし。あいつも忙しいみたいだからね」

「え? ネズミ男が?」

「うん。今日から当分の間、新しい商売探しの為に、留守にするそうだよ」



 は?



「っておいっ 鬼太郎! なに言って――」

「そうだよね? この前言ってたじゃないか、ネズミ男」

「………」



 ネズミ男がすべての反論を言い終わる前に、鬼太郎がにこりと笑って、視線を寄こした。
 ネズミ男は汗をだらだらとさせながらも、己の頭の中はしらず、フル回転していた。
 鬼太郎はあれだ。
 つまり。
 この男は遠まわしに言ってるのだ。


 “当分の間、うちに来ても食べ物は恵んでやれないよ”―――と


 そりゃあ困るぜ……!

 目の前のネコ女をちょーっと苛めたくれえで、飯にありつけねえってのはよ

 ………

 ………

 ああっ、ったくよう!
 わかりました! わかりましたよ、べらぼうめっ。
 けど、そのまんま教えてやるかってんだ。



「わーったよ、教えてやるよ、教えてやればいいんでしょうが!」

「えっ!」

「ただしだ!答えは教えてやんねえからな。自分で考えな」

「……うん」



 ありがとう、ネズミ男。
 何だかんだ言いつつも優しいわね、と嬉しそうに笑って頷いた直後だった。
 この男はとんでもないことを口にした。



「答えは俺も持ってるし、俺以外にももちろん持ってるもんだよ。あと、おめえも」

「え?」

「おめー、いつも鬼太郎が人間の美人や可愛い女の子と仲良くしてるのを嫌がるじゃねえか」

「な……っ!!」



 なんということをこの男は口走ったのだろうか。それもこの場で、鬼太郎がいる前で。
 ネコ娘の頬は、恥ずかしさからみるみる野苺色に色づいていく。鬼太郎の顔も見れない。
 ネコ娘は必死に喉につまった言葉を唇にのせた。
 確かにそうだけれど。だけどよ。



「な、何言ってんのっ。それに、何でそれが答えに繋がるって言うのよ」

「だあから、それはてめーらで考えろって言っただろ。んじゃ、俺はこのへんで失礼すんぜ」



 どっこらしょ、とネズミ男は立ち上る。


「え、ちょっ、ネズミ男!」

「んじゃーな。鬼太郎、おめえも大概わかりにくい奴だぜ」

「何のことだい」

「――へっ。とぼけやがってよう」



 そう呟いてネズミ男はゲゲゲハウスの入り口へとむかう。
 後のことなんて、自分の知ったことではない。
 勝手に続きを考えるなり、仲良くするなりしたらいい。
 ああ、やだねやだねっ。こっちまでむず痒くなってしまうじゃねえか。

 この後の鬼太郎がネコ娘に何て声をかけるのかわからないが、ネコ娘はきっと頬を染めたまま、彼に向き合うのだろう。

 そんなことを考えながら、ネズミ男は階段を下りていった。


    - f i n. -

この後は皆様でご想像くださいませ。とりあえず・・・答えはおわかりになりましたでしょうか?^^。これ実際にめいこも友人に出されました。なかなか出てこなかったです(笑)

















<<重要なお知らせ>>

@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
@peps!・Chip!!は、2024年5月末をもってサービスを終了させていただきます。
詳しくは
@peps!サービス終了のお知らせ
Chip!!サービス終了のお知らせ
をご確認ください。



w友達に教えるw
[ホムペ作成][新着記事]
[編集]

無料ホームページ作成は@peps!
無料ホムペ素材も超充実ァ