01.掛け違えたボタン
(2鬼猫)
ふふふ。
まだ半ば眠気を残した僕を見て鈴を転がしたように、やわらかくネコちゃんが笑う。
僕はどうしたんだろうと思って聞いてみた。
「ネコちゃん、どうしたんだい?」
「鬼太郎さん、気がつかないのね」
「?」
なんのことかわからない僕にむかって、ネコちゃんは腕を伸ばしてくる。
陶器のように白くて細い綺麗な彼女の指が、僕の学童服のボタンに添えられた。
「鬼太郎さんたら、ボタンを掛け間違えてるわよ」
「え?」
驚いて自分の胸元を見れば、確かに3か所がちぐはぐだ。きっとまだ寝ぼけ頭のまま服を着てしまったのが原因だろう。
まるで幼子のような間違いに、頬に熱が集まる……なんだかとても恥ずかしい。
けれど僕がそんなことを考えている間にも、ネコちゃんは僕が掛け違えたボタンをぷつんとはずして、ちゃんとした形に直してくれる。
「ありがとう」
そう言いながらネコちゃんを見上げれば、彼女はどこかとても楽しそうで。その僕のより柔らかそうな唇は、綺麗な三日月を象っていたんだ。
そのまま思ったことが口から零れる。
「ネコちゃん。なんだかとても楽しそうだね」
「うふふ、だって」
「だって?」
「鬼太郎さんが、すごく可愛いと思っちゃったの」
そう言ってネコちゃんは花が綻んだように笑った。
正直―――男としてはどちらかといえばあまり喜べないんだけどね。
それに。
君のほうが、とても可愛いじゃないか。
間近で笑う君の表情が、本当に可愛いなあ、って。
君のこんな楽しそうで、可愛い微笑みが見れるなら。
今度は、確信犯になってみようかなあ。
- Fin. -
無邪気で可愛い野沢君も好きですが、ちょっぴり腹黒そうな野沢君も大好きなんです……と言ってみる。