02.ひどい寝ぐせ
 (5鬼猫)






 たまに、鬼太郎をとても可愛いなんて思ってしまう時がある。




 いつもあたしよりもどこか大人びていて、時に容赦ない言葉が飛び出すこともある彼。
 でも優しくて、困っている人をほおっておけないのよね。
 だからそんな鬼太郎に、みんな惹かれ――そして恋をしてしまうのだろう。
 ミウちゃんも。
 葵ちゃんも。
 他の人間の女の子もまた――。
 けれど、きっとこんな鬼太郎を知っているのは、あたしだけなんじゃないかな、なんて自惚れてしまうの。







 あたしは、それを見つけて、小さく笑ってしまった。



「鬼太郎」

「ふあああ。なんだい、ネコ娘」



 手の平を口元にあてながら、目の前の鬼太郎はおおきなあくびをひとつ零した。
 まったく、鬼太郎ったら相変わらずなんだから。とっくに日は登りきったお昼時に、彼は寝床を出てきたのだ。
 もうほんと、鬼太郎はぐうたらなんだから……と心の中で溜息をつきながら、彼を見て―――あたしは小さく吹き出してしまった。
 そんなあたしを見て首を傾げる鬼太郎に、ふくくと笑いながら言ってあげる。



「寝ぐせついてるわよー」

「寝ぐせ?」



 あたしの指摘に鬼太郎は、自身の手を髪にやる。
 けれど、どこに寝ぐせがついているかわからないみたいだったから、あたしは「違う違う。ここよ」と鬼太郎のその部分に手を伸ばした。
 サラサラとしたクセのない鬼太郎の髪。その一部分が、ぴょこんと跳ねている。鬼太郎もそこに手をあてた。



「ほんとうだ」



 ひとつしかない瞳を、気持ち上に向けながら鬼太郎が、のんびりと零す。
 何度か撫でつけるみたいだけど、やっぱりそれだけじゃ駄目みたいだ。
 助言を出してあげる。



「ただ撫でつけるだけじゃ、直らないわよ。お水かなにかで、一回濡らさなきゃ」

「……めんどうだなあ」



 なんとも彼らしい返答だ。



「鬼太郎。直す?」

「うーん……別に困ることはないだろうしね。このままでいいよ」



 そう言って鬼太郎は、父親の朝風呂の準備に取りかかる。
 ほんと彼らしい。
 まあ、鬼太郎がそれでいいならあたしがそれ以上、どうこう言う理由もない。

 しゅんしゅんと湧いたお湯を、茶碗に注ぐ鬼太郎。ほんの少し動く度に、その柔らかそうな寝ぐせが、ふわりと踊る。それが何だかほんとに、可愛いの。
 そう思ったら胸に広がっていくのは、あたたかくて、あまい感情とそして―――。







「……鬼太郎」

「うん?」

「鬼太郎は、今日は外出禁止! 好きなだけお昼寝しててね!」

「…………へ?」


 ほけっとした表情でパチパチと瞬きを繰り返す鬼太郎。「ど、どうしたの。ネコ娘?」「いいから、絶対ねっ」 そんなやりとりをするあたし達。


 だって。


 どうしたって、こんな可愛くて珍しい彼の姿を、他の人には見てほしくないんだもん。
 ぐうたらな鬼太郎も、どこか抜けてる鬼太郎も、情けない鬼太郎も、そういうの全部。





 やっぱり、これから先もずっとあたしだけに見せてほしいから。
 これくらいなら、我儘言ってもいいわよね。





     - F i n.-


 ネコ娘の前だけに見せる無防備やいろんな鬼太郎が好きです。幼なじみばんざいっ!












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