容姿等は個々にご想像してお楽しみください
ハローハロー・ベイビー
僕達のところに新しい命がやってきたのは数ヶ月前。
お婆のところから帰ってきたとたん、ネコ娘は弾んだ声で僕の名前を呼びながら抱きついてきた。
「うわっ ネ、ネコ娘? どうしたんだい?」 いきなりのことに驚きながらも、彼女の腰辺りに腕をまわしながら聞いてみた。
そうしたら彼女は陶器のように白い頬を桜色に染めて――少し興奮気味に唇を開いて。
「あのね、鬼太郎―――赤ちゃんができたみたい」
……一瞬。
僕は「え」とポカンとしてしまった。そんな僕よりも先に喜びの声をあげたのは、他でもない父さんだった。
僕達、幽霊族は生殖能力が極めて低い。子どもを望んだとしても、それは本当に時の運とも呼べるだろう。だからこそ、父さんは心から喜んでいる。いつものように茶碗風呂に入っていた父さんは、喜びのあまり身を乗り出しすぎて、茶碗風呂はひっくりかえってしまって――でもそんなことも気にせずに、喜びの声をあげていた。
僕も―――
「………ネコ娘」
「き、鬼太郎?」
「ありがとう、ネコ娘。僕はいつも、君から幸せをもらってばかりだ」
込みあげる幸福感の衝動のままに気がつけば、今度は僕のほうから、ネコ娘を掻き抱いていた。
その時、彼女のキャラメル色の髪に顔をうめた僕の耳に聞こえてきたのはやわらかい声だった。
「あたしだって同じなんだからね、鬼太郎」
それからの横丁はまるで祭りのような騒ぎになった。横丁の仲間が――黒鴉さんが――そしてその黒鴉さんから知らされた蒼にいさんが。みんながゲゲゲハウスを訪れてくれて。
そんな中、からかいにやってきたネズミ男にネコ娘が追いかけようとして、僕は本気で慌てたりした。
「あっ ネ、ネコ娘!走っちゃだめだよ!」
そんなことすら、幸せでたまらない日々だった。
「――あっ」
「どうかした?」
ちょうど春の穏やかな日差しが差し込む場所に腰をおろしていたネコ娘が、読んでいた本を床に置いて膨らんだ腹部に手を添えた。
そんな彼女に、隣に同じように腰を下ろしていた僕は首をかしげながら聞いてみる。
そうしたらネコ娘は口元を笹舟の形に綻ばせた。
「鬼太郎、今ちょっとだけ動いたのっ」
「えっ ほんとかい?」
「ほんとうよ―――ねえ、鬼太郎も聞いてみて」
ネコ娘は僕の服の裾をくいくいと軽く引っ張っる。
それにつられるようにごろん、と彼女の膝に頭を置いて―――そっと耳をあててみた。
「聞こえる?」
「………うーん……よくわからないなあ」
ネコ娘のうきうきとした声。けれどなかなか僕の耳に聞こえてこない。
………これは集中して聞かないと、難しいや。
そんなことを思いながらも、しばらくの間耳をあてているとかすかな音が伝わってきた。
「―――あ」
「鬼太郎ー、聞こえた?」
「……うん。ほんとうだね、ちゃんと聞こえる」
確かに新しい命がここに存在している。
生きているんだ。
僕とネコ娘の子どもは、男の子だろうか。それとも女の子だろうか?
どんな声で産声をあげるんだろう。
「ネコ娘」
「なあに、鬼太郎?」
「……はやく あいたいね」
「うん」
まだ見ぬ僕達の子。
君のお母さんも僕も、はやく君にあいたいよ。
それはきっと僕の父さん――君のおじいちゃんだね。
それと僕達だけじゃない。
この妖怪横丁に暮らす妖怪のみんなも、君が仲間になるのを心待ちにしているんだ。
だからね
だから――どうか元気に君が生まれてくるようにと、その時を待っているよ。
- F i n.-
書いていて意外と楽しかったです。でもファザコンの高山君がどこかにいっちゃっています。それにしてもあまいお話って書いててムズガユイ。